山下清からの問いかけ
- 荒牧 直子

- 2024年10月31日
- 読了時間: 2分
更新日:2024年11月1日

「放浪の画家」
「裸の大将」
で知られる山下清。
私は、なんと言ってもあの精巧を極めた貼り絵をこの目で見たくて
鑑賞してまいりました。
中でも有名な「長岡の花火」は作品集で鑑賞したことがありましたが
実物は圧巻です。
水面に映る花火や、すーっと流れる流れ星が大変美しい。
もっと驚いたのは「菊」と「桜島」。
菊のそばに飛びかう蜂たち。
いや、もう、まるで本物をぺしゃんこにして貼り付けたかのようなリアルさ。
また、桜島の手前には鉄道保安作業員と思われる5人分の、
お弁当包み、急須、お盆に伏せられた湯呑みが!
見逃してしまいそうなほど小さいのですが
見つけたことがうれしくなるほど、妥協のないお弁当包みの結び目!
そして、「来て、よかった」と思ったのは、
清直筆の「放浪記」とお母さんに宛てた葉書を
この目で読むことができたことです。
貼り絵さながら、ノートはびっしりと文字で埋められています。
句読点、カギ括弧、改行、一切無し。
文法も正しくありません。読みにくいです。
それなのに、引き込まれるように読んでしまいます。
清の純粋さが伝わってくるのです。
たとえ文章が拙くても、記録しよう、伝えようとする思い、
また、読みにくかろうが、何が書かれているのか掬い取ろうとする思い
これが文章を介してのコミュニケーションにおいて最も重要だと
忘れかけていた大切なことを思い出させてもらいました。
「フィルターのかからない自分の目で見ていますか」と
清に問いかけられるようです。
帰り道、電車の窓からの山や空を眺めながら
彼が鹿児島を訪れた当時とはずいぶん変わってしまったと
驚くだろうけど
清はこの景色をどう「見る」か
放浪記にどう記すのか、どんな絵画に仕上げるか、見てみたいと
叶わぬことを思ったのでした。



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